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フジサンケイビジネスアイ (2015年6月26日 11面掲載)

「統合型リゾートが日本を変える」
<第3回> 不正防止対策、ルール化が急務

「日本版」 IR・カジノ創生への論点

日本の成長戦略にとって欠かせない地方創生。政府の重点施策の一つでもあるが、カジノを含めた統合型リゾート(IR)は地方経済に大きなインパクトを及ぼすとみられている。IR導入にあたっては、特にカジノにおける不正防止のための内部統制の仕組み作りが欠かせない。内部統制について考える上でのポイントは何か。この分野に詳しい国際カジノ研究所所長の木曽崇氏、EYフィナンシャル・サービス・アドバイザリーの佐藤誠氏、EY Japan 統合型リゾート(IR)支援オフィスの小池雅美氏の3氏に話を聞いた。

内部統制は最重要課題

  • 木曽
  • カジノビジネスを考える上で、内部統制は非常に重要です。ライセンスを守るために、あらかじめ最低限のルールを定めて、それに基づいて運営する。それは自分たちの商売を守るということですね。
  • 小池
  • ライセンスビジネスですから、究極的にはライセンスの剥奪(はくだつ)ということもあります。そうならないためにも、内部で定めておくべき手続きやルールが必要です。カジノにおいては、不正や間違いが起こることが前提で考えなければなりません。
  • 木曽
  • カジノでは、お金は常に右左に動いています。ある意味、銀行の小さな窓口業務というものをカジノ内に保有しているわけです。カジノの場合は、トランザクションの多さ、取引量が異常に多く、さらに不特定多数であるという点が難しい。集積したデータを内部監査の人たちが一つ一つ紐解きながら、末端のところでどういう間違いがあって、ズレが起きているのかを常にチェックをするわけです。銀行がやっていること以上の複雑な作業が要求されます。
  • 佐藤
  • 銀行では、取引はコンピューター上に記録されますが、カジノでチップが誰から誰に渡ったかとか、誰がいくら賭けたとか、すべての情報を把握するのは不可能です。金融の世界ではリスクベースド・アプローチと言って、ハイリスクな顧客・取引を厳格に管理するやり方が一般的です。EYではラスベガスのカジノで導入実績があります。
  • 木曽
  • 従業員の動きもコントロールされています。全員アクセス権の異なるカードを持っていて、スロットマシンの金庫の運搬担当は金庫だけにしかアクセスできません。それぞれのアクセス権が徹底的に管理されています。さらにIT技術を組み合わせて、IDカードと生体認証で個人認証してアクセスするというような厳密なルールが一般的ですね。ただ、内部統制というとカジノサイドによってしまいがちですが、ノンゲーミングの部分でも同じボリュームで必要です。カジノ内の売上がカジノ以外の部分に付け替えられている、カジノで稼いだポイントがノンゲーミング事業に移動しているケースもある。カジノサイドだけで考えていると捉えられない部分もあり、ゲーミング、ノンゲーミングの両アプローチでないと全体の統制ができない場合もあります。
  • 小池
  • カジノ内における不正の事例はいろんなタイプがあります。お客さんや従業員単独の場合、お客さんと従業員の共謀もありますし、金額的にも大きい事例が膨大にあります。
  • 木曽
  • そうした事例をケース別に分けながらチェックをして、誰が本当の主体なのか判別していかなければなりません。特にお客さんと従業員が組んでお金を取ろうとするケースは、管理が難しい。内通者が内部の情報操作までしてくる可能性もあります。
    従業員の不正防止という点では、最低限守ってもらうルールを理解してもらうのが、内部監査の一番の仕事ではないかと思います。あるカジノでは、担当者が年間100ドル以上のズレが出るとクビになります。内部監査は、あなたたちの仕事を守るためにやっているということを理解してもらった上で、ルールを徹底する必要があるでしょう。
  • 小池
  • 一方でお客さんの立場からみると、カジノは不可解なルールが多い。手の位置をどこに置いてくださいとか、ディーラーが替わる時に手をはたいて上に向けるとか・・・それらはチップを盗まれないための行動であり、そういった例が山のようにあるわけです。それらを一つ一つ理解したうえで運営していかなければいけません。
  • 木曽
  • カジノのセキュリティシステムは、IT化されたハイテクなものだと思われがちですが、意外にも原始的手法が多いんです。決まっている所作を守っている限り悪さはできない、というルールでトレーニングされている。複数の人間で相互監視をするというやり方、その積み上げでコントロールされています。

世界一信用されるカジノへ

  • 佐藤
  • マネーロンダリング対策は、日本は世界的水準からみて遅れていると言われています。日本のマネーロンダリング対策法である犯罪収益移転防止法が2013年に改正され、それでも不十分だということで、昨年また再改正の法案が通りました。特に顧客管理の面が弱いとされており、今後そこを法整備で強化していくことになるでしょう。カジノを導入するにあたり、反社会的勢力の問題など潔癖とも言えるような対策がなされていくのではと考えています。
  • 木曽
  • お客様の中から反社会的勢力をいかに識別して、利用からはじくかというのは重要な課題です。IR議連も顧客の中から反社を排除するようにという指針を出しています。
  • 佐藤
  • 警察が保有する反社会的勢力に関する情報は限定的です。そこで、各金融機関は自前でデータを集めています。しかもカジノの場合、国内だけではなく海外からのお客さんもチェックが必要です。最近マスコミで、マカオでは習近平国家主席の腐敗対策の施策により売上が激減していると報じられていました。"ジャンケット"と言われる仲介者が、顧客をマカオには連れて行かず、カンボジア、フィリピンなど東南アジアに誘導していることも原因となっているようです。規制の厳しい場所から、VIP客を連れて行くとしたら、規制がゆるくて管理が甘い場所に連れて行くでしょう。そういう人たちの入場を無制限に許してしまってはいけない。日本は海外のお客さんに対する調査能力が弱い。EYでは世界46ヵ国に調査センターを持っており、世界の110ヵ国でリサーチできるサービスがカジノに提供されており、海外のPEPs(重要な公的地位を有する者)や反社会的勢力などのハイリスク顧客の調査にお役に立てるものと考えます。
  • 小池
  • 内部統制の仕組みを作るにはそれなりの時間がかかります。産業として特殊なリスクが生じるということを考えると、今後の規制によっても仕組みの内容は変わるでしょう。ただ、一般の企業が上場しようとする場合よりも、時間がかかることは間違いありません。
  • 木曽
  • カジノ合法化に向けて、これから大本の細かい規則を作り、それに基づいて民間側が諸策を定めるわけですが、それにあたってEYのような企業のアドバイザリー機能と、海外のカジノ運営のノウハウとの合わせ技が効率的でしょう。それでも、仕組みを1年程度で作るというのは難しいでしょうね。
  • 佐藤
  • 導入期間を短くするには、既存のものを持ってくるしかありません。マネーロンダリング対策のソリューションとしては、海外のカジノで実証済みのもので日本の規制に合わせてカスタマイズするだけで、簡単に導入できるものがあります。
  • 木曽
  • 日本の特殊な環境に合わせた不正対策を、海外以上の高度なレベルでやらなければなりません。海外と日本の知見を組み合わせることが必要でしょう。
    海外で今行われているものを日本人のきめ細やかさで、より厳密なサービスに置き換えることができたら、それは価値のあるものになります。カジノのサービスは、お客様にとって、間違いがあってはならない緻密な商売です。そういうサービスにとって、日本人のサービス、従業員は、世界で一番信用されるカジノが実現できる素養があります。
    日本特有のビジネスモデルも最終的にできてくるでしょう。まずは、海外で実績のある企業のノウハウを学び、それを100%正しく運用することを目指すべきです。
  • 佐藤
  • リスクを遮断して少しでも懸念のある人は一切入れないというやり方ではなく、リスクをマネージして、お客さんを受け入れながらも、世界で一番信用され、かつ経済発展に寄与するようなカジノが作れるんじゃないでしょうか。我々アドバイザーも、その目的のため事業者としての企業の皆様や規制当局の方々のお手伝いができればと考えています。

<プロフィール>

  • 佐藤 誠(さとう・まこと)氏
    EYフィナンシャル・サービス・アドバイザリー株式会社ディレクター
    米国ACAMS認定AMLスペシャリスト
  • 小池 雅美(こいけ・まさみ)氏
    EY Japan 統合型リゾート(IR)支援オフィス シニアアドバイザー
    新日本有限責任監査法人シニアパートナー。公認会計士
  • 木曽 崇氏(きそ・たかし)氏
    株式会社国際カジノ研究所所長

(フジサンケイビジネスアイ 2015年6月26日 11面掲載)