業種別
医療法人会計基準

第4回:医療法人会計基準の特徴および個別論点(その2)

2014.10.14
ヘルスケアセクター
公認会計士 清水 直隆

本シリーズの第1回では「医療法人会計基準の制定の趣旨」、第2回では「医療法人会計基準の概要」について述べ、第3回では個別論点として、注記表、純資産、収益費用の分類、圧縮記帳について解説してきました。
本稿では、税効果会計、金融商品会計、退職給付会計について解説します。

1. 税効果会計

税効果会計とは、会計と税務の違いを調整し、法人税等を適切に期間配分することにより、損益計算書の税引前当期純損益(法人税等控除前の当期純利益)と法人税等を合理的に対応させる手続きをいいます。例えば、以下のとおり、賞与引当金について会計と税務では、その取り扱いに違いが生じます。

  会計上の取り扱い 税務上の取り扱い
賞与引当金 賞与支給見込額のうち、当期に対応する金額を引当金計上する。 賞与引当金の計上は認められない。

税効果会計を適用することにより、この違いを調整し、損益計算書の税引前当期純損益に対応した法人税等を計上することが可能となります。

医療法人会計基準(以下、本会計基準)の本文では、税効果会計に関連して特段の規定はありませんが、上述のような会計と税務の違いに重要性がある場合、企業会計と同様に税効果会計が適用されます。
具体的な会計処理に当たっては、医療法人における社会保険診療報酬等の事業税の非課税および社会医療法人が法人税上の収益事業のみに課税されることに留意し、企業会計における税効果会計(税効果会計に係る会計基準(平成10年10月30日企業会計審議会)など)に準じて処理することになります。

なお、企業会計における税効果会計については、当法人サイト「企業会計ナビ 解説シリーズ 税金・税効果」をご参照ください。

2. 金融商品会計

金融商品とは、金融資産(現金預金、金銭債権、株式および社債などの有価証券等)と金融負債(金銭債務等)をいい、金融資産の一定の範囲のものについては、取得原価ではなく、時価をもって貸借対照表に計上することになります。例えば、資金運用の一環として、短期的な売買により利益を獲得することを目的とする上場株式を保有している場合、当該株式は時価をもって貸借対照表に計上することになります。

金融商品に係る会計基準(平成11年1月22日企業会計審議会)により、企業会計で実施されている金融商品会計に関連して、本会計基準に掲記されている規定は次のとおりです。

第2 貸借対照表
4 資産の貸借対照表価額
満期日まで所有する意思をもって保有する社債その他の債券以外の有価証券のうち市場価格のあるものについては、時価をもって貸借対照表価額とする。
第2 貸借対照表
3 純資産の区分
その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益のように、資産又は負債は時価をもって貸借対照表価額としているが当該資産又は負債に係る評価差額を当期の損益としていない場合の当該評価差額は、評価・換算差額等に計上する。
注解1
重要性の原則の適用について
取得価額と債券金額との差額について重要性が乏しい満期保有目的の債券については、償却原価法を採用しないことができる。
注解9
外貨建の資産及び負債の決算時における換算について
外国通貨、外貨建金銭債権債務(外貨預金を含む。)及び外貨建有価証券等については、原則として決算時の為替相場による円換算額を付すものとする。決算時における換算によって生じた換算差額は、原則として、当期の為替差損益として処理する。
注解10
貸倒引当金について
未収金、貸付金等の金銭債権のうち回収不能と認められる額がある場合には、その金額を合理的に見積もって、貸倒引当金を計上するものとする。
ただし、社会医療法人以外の前々会計年度の負債総額が200億円未満の医療法人においては、法人税法における貸倒引当金の繰入限度相当額が取立不能見込額を明らかに下回っている場合を除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上することができる。

金融商品会計の会計処理については、医療法人に馴染まない特異なものを除いて基本的に企業会計と同様に取り扱うこととなり、具体的な範囲や会計処理については、日本公認会計士協会から公表されている「金融商品会計に関する実務指針」に従うこととなります。
ただし、重要性がない場合の例外事項として、注解1において、満期保有目的債券の会計処理について償却原価法を採用しないことができる旨、注解10において、社会医療法人以外の医療法人において、負債総額が200億円未満(前々会計年度)の場合、法人税法における貸倒引当金の繰入限度相当額が取立不能見込額を明らかに下回っているケースを除き、その繰入限度額相当額を貸倒引当金に計上することができる旨を、それぞれ規定しています。

なお、金融商品会計については、当法人サイト「企業会計ナビ 解説シリーズ 金融商品」をご参照ください。

3. 退職給付会計

退職給付とは、一定期間にわたり労働を提供したことなどの理由に基づいて、退職以後に従業員に支給される給付をいい、退職給付会計とは、将来の退職給付のうち、当期の負担に属する額を当期の費用として引当金に繰り入れ、当該引当金残高を退職給付引当金として貸借対照表に計上することをいいます。

退職一時金または退職年金を制度として導入している場合は、退職給付会計を導入し、退職給付に係る会計基準(平成10年6月16日企業会計審議会)および日本公認会計士協会から公表されている「退職給付会計に関する実務指針等」に基づき計算した退職給付引当金を計上します。
ただし、退職給付会計の導入に当たり、注解19において以下の2つの例外的な取り扱いを規定しています。

(1) 適用時差異について15年内分割費用処理の許容

経過的な取り扱いとして、本会計基準に伴う新たな会計処理の採用により生じる影響額(適用時差異)は、15年以内の一定の年数または従業員の平均残存勤務年数のいずれかの短い年数にわたり、定額法により費用処理することができます。
なお、病院単位の財務諸表で当該処理を行う場合は、各段階利益等において病院会計準則との相違が生ずることから、病院会計準則適用ガイドライン(<ガイドライン 3-9 退職給付債務の会計処理等に相違がある場合>)に基づいて、当該影響について注記することが必要となります。

(2) 簡便的な取り扱いが許容(一定の法人について簡便法を無条件に適用可)

社会医療法人以外の医療法人において、負債総額が200億円未満(前々会計年度)の場合、簡便的な取り扱いが許容されています。具体的には、退職給付に関する会計基準(改正平成24年5月17日企業会計基準委員会)第26項などに基づく「従業員数が比較的少ない小規模な企業等」に該当しない場合であっても、簡便法の適用が可能となります。
なお、簡便法とは、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行うなどの簡便な方法を用いて、退職給付に係る負債および退職給付費用を計算することをいい、簡便法を適用する場合、退職給付に関する会計基準の適用指針(改正平成24年5月17日企業会計基準委員会)第48項から第51項に従った会計処理を行います。

なお、退職給付会計については、当法人サイト「企業会計ナビ 解説シリーズ 退職給付会計」をご参照ください。

次回は、リース会計、棚卸資産の評価方法、減損会計、関連当事者の注記について解説します。